それは極めてめずらしい准太の姿だった。「皆さん、本当にすみませんっ」平身低頭して、監督やスタッフに詫びている。准太がつまづいているのは、『ドラマのお仕事』の１シーンだ。劇中ドラマのキーアイテムであるガラス細工を、准太演じるワンタが

楽屋を出ると、ちょうど迎えにきた准太が笑顔をキラキラさせながら駆け寄ってきた。「高人さ～ん、お疲れ様です！　例のドラマの台本、届きました！」准太が持っている台本を見て、高人はふっと不敵に笑む。「あぁ、俺のところにも来たぞ」

スタジオの廊下に貼られていたカレンダーを見て、高人は愕然とした。（え……うそ……１１月１１日って、もう明日！？）１１月１１日は、准太の誕生日。当日の昼間はお互い仕事があるが、晩ご飯を一緒に食べることになっている。それだけのことに

高人は後輩たちを見送って、やれやれと息をつく。「静かになったな。あいつら、無駄に元気いいーー」准太が浮き輪にのしかかってきて、両腕を回してきた。そして高人の黒髪に頬をすり寄せながら耳元に囁いた。「やっと、二人きりになれましたね」

太陽が海に沈み、空が暗くなってきた。沖縄の映画祭での仕事を終えた高人と准太は、関係者やスタッフへの挨拶をすませて会場を後にし、宿泊先のホテルに入った。「高人さん、お疲れ様でした。映画祭、すごく盛り上がりましたね」「フッ

シャワーから勢いよく噴き出す湯と、むさぼり喰われるような濃厚なキスを浴びて、溺れそうになる。「ん……んんっ……！」高人は意識が飛びそうになるのを必死にこらえて、力いっぱい准太を押し離した。「ぷはぁっ！　こ…この発情天使っ！　わけわかんないことで盛るなっ！」

夕方になり日が落ちると、少し肌寒くなってきた。「お疲れ様でした。お先に失礼します」都内のロケ地でドラマの撮影を終えた高人は、笑顔で共演者やスタッフに挨拶をし、荷物が置いてあるロケバスの方へ向かう。マネージャーの佐々木の姿はない。

こいつと囲む、いつもの食卓。シェリービネガーソースたっぷりのイベリコ豚のローストに、濃厚なイカ墨のパエリア。特製のサングリアはオレンジとシナモンが絶妙なバランスで、これでもかと言わんばかりに食欲を掻き立ててくる。